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リーザル・マルティネス博士との懇談

国際交流担当 長崎千佳恵

 (財)全日本ろうあ連盟日本手話研究部の招きで、フィリピンの手話言語学者リーザ・マルティネス博士が来日されました。博士はギャローデッド大学で言語学の修士号を取得され、帰国後フィリピンろうリソースセンター(PDRC)を創立、現在は同センター長をされています。全通研国際交流担当では、講演会前日の2005年6月11日に1時間半のお時間を頂き、懇談の機会を得ました。お話の概要をご紹介します。

 現在、フィリピンには2つの手話通訳者団体がある。そのうち歴史的に古いPhilippine Registry of Interpreters for the Deaf(PRID)は通訳者養成講座を行っており、司法・政治関係の通訳者やろう学校の先生を輩出している。政府による通訳者認定試験は、現在のところない。

 また、各宗派の教会が政治的に大きな影響力を持っている。信者として少しでも多くのろう者を獲得しようと、ろう者・健聴者を問わず優秀な手話通訳者を育て、派遣している。各地域の手話通訳派遣に関しては、教会の役割が大きい。

 手話通訳費用はろう者自身が負担するのが原則で、例えば、大学の授業に通訳を依頼できるのは、経済的に余裕のあるろう者だけである。なお、中学や高校では先生が通訳している。フィリピンには現在、手話通訳の仕事で生計を立てている通訳者はいないであろう。

 フィリピンろうリソースセンター(PDRC)では主に、手話の辞書をはじめとする出版物の発行、フィリピン各地の手話調査・研究等を行っている。将来的には、ろう者が自ら手話講習会・手話通訳者養成を行い、手話指導で生計を立てられるようにすることが目標である。センターとしては、その目的に向けて技術的支援を行い、現在は8名のろう者に対して指導者養成を始めている。いずれは、手話を教育する機関が、学校として行政に認められることを目指している。

 フィリピンは7,000以上の島々から成り、文法も異なる8言語が主要言語として認められている。このため手話の統一が困難で、辞書や教材の作成にも非常に苦労している。標準手話を決めるのに、既存の手話の中から一つを選ぶのか新しい表現を作るのかが、現在大きな課題だ。日本の手話通訳者は、通訳場面や地域によって、標準手話と対象者特有の手話を使い分けるとご説明したところ、大変興味をお持ちだった。

 歴史的に見ると、フィリピンの手話は独自のものだ。ろう教育の歴史も長く、ろう学校が創立されてから、まもなく100年を迎える。しかし、後にアメリカから15年間にわたり派遣された平和部隊(途上国支援ボランティア)によって、アメリカの手話教材・単語が持ち込まれ、その結果ASLの影響を強く受けた。言語構造はASLに近いけれど概念が違う単語が多く、ASLと同じ表現であってもそれが同じ意味であるかは、意見が分かれるところだ。

 フィリピンのろう者と手話通訳者の関係は、日本と同じく協調的・友好的関係である。アメリカのように通訳者が実務的に対応し「それは手話通訳の仕事ではない」というような関係は、アジアの国々にはそぐわないということで私たちと意見が一致した。

 博士との懇談を通して、アジア各国で抱えている問題は似ているのではないかと感じました。他国での解決方法を知ることは、日本にとっても大変参考になると思います。さらに今後、アジアでの手話通訳のあり方について意見交換・情報収集するために、アジア各国の手話通訳者団体による体制作りは、とても重要だと感じました。

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